愛を邪魔する霊障

第5話 低級霊のいたずらに翻弄された二人

美奈子さんと泰明さんは大学三年生のカップル。つきあってちょうど二年になります。もともとは明るく活発な美奈子さんですが、最近は沈みがち。特に泰明さんと一緒のときは顔をうつむかせ、時には涙ぐむこともありました。
事の発端は三カ月前に遡ります。生理が遅れていることに気づいた美奈子さんは市販の妊娠検査薬を試しました。結果は陽性。慌てて泰明さんと一緒に産婦人科を訪れ、妊娠はまちがいないと診断されたのです。
二人とも学生の身では、出産は難しい。それでも美奈子さんは「私たちの赤ちゃんを殺したくない!」と泣きましたが、泰明さんには学校をやめて働き、美奈子さんと生まれてくる子供を養う自信はありませんでした。彼に説得され、泣く泣く中絶した美奈子さん。その日から彼女は人が変わったように塞ぎ込むことが多くなったのです。
「私たちの赤ちゃんを供養してあげなくちゃ」
美奈子さんが行動力を見せるのは、中絶した子に関することだけでした。水子供養で有名な寺を探し出し、電車とバスを乗り継いで出かけたのです。一度供養すれば気が済むだろうと考えていた泰明さんを尻目に、美奈子さんは彼と会うたび、その寺へと行きたがります。この三カ月で十回以上は行ったそうです。
(そろそろ立ち直ってくれよ、美奈子)
泰明さんのそんな願いも空しく、美奈子さんはますます様子がおかしくなってきたのです。

「もしもし、泰明?」
「美奈子か…なんだよ。こんな遅くに」
深夜二時、電話をかけてきた美奈子さんは泰明さんをぞっとさせることを言い出しました。
「赤ちゃんの泣き声が聞こえるの。きっと私のことを呼んでいるのよ」
「…何言ってるんだよ。夢でも見たんじゃないのか?」
「夢じゃないよ。だって今も聞こえるもん。ほら!」
電話の向こうからは美奈子さんの息遣いしか聞こえません。さらに美奈子さんは言います。
「私ね、母乳が出るようになったんだよ」
「美奈子…そんなわけないじゃないか。しっかりしてくれよ。堕ろした子供にはオレも申し訳ないと思ってる。でも、いつまでも引きずってちゃよくないよ!」
「泰明のバカ!赤ちゃんは生まれたのよ。私のおっぱいをほしがって泣いてるの。早く行ってあげなきゃ」

当初、泰明さんは美奈子さんが精神を病んだのかと思いました。ショックのあまり、幻聴や幻覚を見ていると…。それがある日、まちがっていたことを知ることになります。
美奈子さんを精神科へ連れて行こうと、アパートを訪れた泰明さんはそこではっきりと聞きました。生まれたばかりの赤ちゃんの泣き声を。しかし、きっと同じアパートかこの近所に赤ちゃんがいるんだろうと思い直したのですが、美奈子さんがTシャツをたくし上げると、以前よりも豊満になった乳房から白い液体がポタポタ垂れているではありませんか。
「昨夜はやっと赤ちゃんを抱っこできたの。おいしそうにおっぱいを吸ってたわ」
(水子の祟りじゃないか?!)

泰明さんはネットで調べた除霊専門の霊媒師のところへ美奈子さんを連れて行きました。
「これはまちがいなく水子の祟りですね。お祓いには三十万円かかりますが、よろしいですな」
あごひげを伸ばした霊媒師に言われ、泰明さんは慌てました。「ネットには三万円からって書いてあったじゃないですか!」「“から”ですよ。難しい除霊にはそれだけ精神統一が必要。こちらも命がけで取り組むんですから」「わかりました。もういいです!」
泰明さんが電話占いニコールにお電話をくださったのはこの後です。

霊視をした私は、美奈子さんに取り憑いているのが決して水子の霊などではないことがすぐにわかりました。それは水子供養の寺をさまよっていた低級霊で、あまりに美奈子さんが憔悴しているのをおもしろがり、からかってやろうと霊障を起こしていたのです。
私は除霊・浄霊をして、美奈子さんから低級霊を引き離しました。そして、美奈子さんにじっくりお話ししたのです。
「貴女方の赤ちゃんを産んであげられなかったのは残念なこと。でも、赤ちゃんはちゃんと成仏して貴女を見守ってくれています。いつまでもメソメソしていたら、また低級霊に取り憑かれて、亡くなった赤ちゃんが心配しますよ」
美奈子さんはしばらく黙った後、明るい声で言ったのです。「わかりました。私、これから赤ちゃんに恥じないような生き方をしていきます」
それ以来、美奈子さんのアパートに赤ちゃんの泣き声がすることも、母乳が出ることもなくなり、二人は避妊に気をつけながら、元のように明るい交際を続けているそうです。

このように、ネガティブな心は低級霊を引き寄せて、霊障を起こさせてしまう恐れがあります。生きていれば、辛いこと、悲しいことがたくさんありますが、いつまでも引きずらず、立ち直る努力をしてください。

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